あくまでも観客席から

アイドルにかじりついた記録を残したい人のブログ。

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2014/8/23 『憲法主義』発刊記念 内山奈月×南野森 公開模擬授業レポート

アイドルが憲法本を出して大丈夫?

憲法主義』。なっきーこと内山奈月さんがこのタイトルの本を出すと聞いて、僕は少し心配していました。発売の前後はちょうど憲法9条の解釈に関する議論が政府レベルで巻き起こっていたからです。事実、本屋に行ってこの本を探すと、いわゆる「右系」の仰々しい棚の近くに置いてあることが多いでしょう。いわゆる「タレント本」のコーナーに置いてあることは少ないと思います。タイトルに限らず、デザイン自体も白地に黒い文字のみのシンプルなもの。とてもアイドルの本とは思えません。

つまり、アイドル本としては異端すぎてアイドルファンには売れないのではないか。そして、憲法や政治に興味がある人にはアイドルという白い目で見られて手に取られないのではないか。そういう心配がよぎったのです。

……ところが!

読み始めてみると、ページをめくる指が止まりません。すぐにこの本が憲法本としても、なっきーファンの本としても売れないはずがないとビビッときました。2日間に渡る九州大学准教授(現在は教授)の南野森さんとのわかりやすい講義と、的確に疑問をぶつけていくなっきーの会話を収録したこの本は、改めて日本国憲法を理解するのにとても役に立つのです。あまりにもスルスルと頭に憲法の理解が入っていくので、購入後1時間半も経たないうちに読み終えてしまいました。ファンとしてなっきーに驚きつつ、憲法の理解を進めていく。これはアイドル本としての1つの可能性を感じる一冊だと感じざるを得ませんでした。

すっかりなっきーモードのセミナールーム

そんな本への感動を忘れないまま、8月23日土曜日(朝オタ5thラウンドを終えた後仮眠もそこそこに!)、都内某所のセミナールームへ僕は向かいました。さすがビジネス書中心のPHP研究所、部屋の雰囲気はビジネスマン向けのセミナーなのですが、会場に集まったファンはみんなラフな格好! ファンの方も普段はネクタイをビシッと締めてる方も多そうですが、今日ばかりは普段のワイワイとした握手レーン前のような談笑モード。そのコントラストが何かAKBをとりまくカオスさの1つを表現しているようでした。いろんなものをハックしてきたAKBですが、ビジネスセミナーもハックしちゃうのかもしれませんね。

そんな中、なっきーと南野先生が入場。盛大な拍手で迎えられましたが、まだまだビジネスセミナー風の空気が残っており、なっきーも緊張している模様。お2人の学歴を紹介した後(アイドルも学歴を紹介されるのです!)、南野先生が「せっかくだから内山さん、キャッチフレーズどうですか?」というアシストをした後、会場の空気は一変。「いつも笑顔だー!」『なっきー!』「今日も笑顔だー!」『なっきー』「あなたをー! ハッピーにしたい。内山奈月です!」『いえーい!』というキャッチフレーズのやりとりですっかり会場は劇場と同じような暖かい空気に! 緊張していたなっきーも気持ちが和らいだようです。南野先生、ナイスアシストでした!

憲法主義』延長戦に感じるアイドルイベントの新たな可能性

 ここからは本でも行われている1対1の講義の延長戦になります。テーマは『憲法主義』でも取り扱っていた「司法権」、特に違憲審査制になります。「どうして日本では違憲判決が他国に比べると少ないのか?」という疑問を、「司法の独立」という視点から掘り下げる約50分の講義となりました。戦前から近年の裁判所と裁判官の独立に関する事件を追いながら、なっきーと一緒に勉強していきます。


なっきーがものすごく熱心に講義に意識を傾けてノートを取っているのを見て、気づけば僕も思わず持っていたメモ帳にびっしりと講義の内容を書いていました。ここではさすがにすべてを書けませんが、「大津事件」「1949年 浦和事件」「揺れる司法の時期」などなど、こんなに熱心に歴史のメモを取ったのは学生時代ぶりです。なっきーにばかり目が行ってしまいがちですが、南野先生の講義もすごくわかりやすいんですよ。「もし法学部生でこんなわかりやすい講義で、同じ部屋には熱心に講義を受けているかわいい同級生がいたら…!」と思わずにはいられませんでした。なっきーの通う大学の学生敵視…間違えました、うらやましいです。そういう環境にいられたら、勉強がもっと好きになっていたんだろうなぁ。

ここで気づいたことがあります。壇上で真剣に講義を聞いているなっきーを見ている感覚、何かに似ているんですよね。そう、かわいい子が美味しそうにご飯を食べている姿を眺めている時の感覚なんです。かわいい子がご飯を美味しそうに食べているのを眺めているだけで幸せになれるのと同じように、かわいいなっきーが真剣に講義を聞いているのを眺めているだけでこちらも素敵な気持ちになれるのです。これって、新しいアイドルイベントの形として、すごく面白いんじゃないかなって思います。学生のアイドルファンも増えてきている昨今、こうしたイベントもありなんじゃないかなって思いますね。アイドルといっしょに勉強して、アイドルもファンも意欲的に学習できる。素敵じゃないですか。そんな未来を妄想しながら、楽しい講義の時間は終わりました。

アイドルに教えてもらうこと


講義が終わると、15分ほどの休憩を挟んでなっきー自作のPowerPointでのスライドによる「憲法裁判所」についての発表が始まりました。ここでは、なっきー自身のプレゼンテーションのうまさと、「アイドルがプレゼンテーションすること」のよさを両方体感することができたんです。

なっきーは話の組み立て方がプレゼン、いや論文の組み立ての基本をしっかり踏襲しています。まず、「憲法裁判所を設置するべきである」という仮説を立てる。その上で、メリットを2点紹介し、デメリットも2点紹介する。デメリットをそれに対する反論で乗り越えて、最初の仮説を補強、結論に至るという、仮説→検証→結論という流れがしっかりできています。アイドルに限らず大学1年の夏休みの時点でこれをできる人少ないですよ。しかも、たった15分ほどのプレゼンテーションです。ありえません。いや、そこにありえた!

さらに、なっきーは論理面だけでなく見る人を飽きさせません。これは、AKB48として培ってきた「ステージの上の人」の経験がなせる技でしょう。大きな身振り手振り、あえての自画自賛、あおりなど、通常のプレゼンテーションでやったら少々おおげさなものも、アイドルがやっていると愛嬌になります。結果として、プレゼンテーションを楽しんで見ることができるという、理論と視覚の両面から内山奈月さんはすばらしいプレゼンテーションを見せてくれました。

よくアイドルが出演する教育番組では、あくまでもアシスタントであることが多いです。が、こうして学んだ知識を視聴者に対して"アイドルが"プレゼンテーションすることも、受け手が知識を楽しみながら理解することの手段の1つなのだなぁ、と改めて実感したのでした。そして、なっきーはそのポジションをぜひ獲っていってほしいです。来期の教育テレビにはなっきーが映っていることを勝手に確信しています。

内山奈月は終わらない」

「公開講義」と真面目なテーマのイベントでありながらも、キャッチフレーズのように笑顔であふれていた会場ですが、最後のなっきーのあいさつでは彼女が「笑わないでください」と前置きして今後の決意を語りました。「『憲法アイドル』というAKBでのポジションを築いて、上を目指して選抜へも入りたい」と力強い表情でコメントをしたんです。柔らかい笑顔の中にも、しっかりと見える太くて真っ直ぐな芯。これこそが内山奈月なのだなと感じさせられました。彼女、眩しいほどにギラギラしています。この『憲法主義』でしっかり結果を残してやろうという野心も見えるんです。あの癒しの笑顔の奥からそれが見えてくるから恐ろしい。内山奈月、「選挙でヲタがぶっこんだ」ってだけで終わりませんよ。彼女はまだまだ上昇してきます。それを噛み締めつつ、僕はセミナールームから外の世界へ歩いていきました。

この8月末で、『憲法主義』は第4刷が発行され、総発行部数は総計5万3000部となったそうです。僕の心配なんかどこへやら。内山奈月と『憲法主義』の快進撃はまだまだ終わりません。

・おまけ
Amazonのアイドルクラスタでない人のレビューを読むととても興味深いですよ。

 

憲法主義:条文には書かれていない本質

憲法主義:条文には書かれていない本質

 

 Twitter@110kin(いときん)

※本記事は、こちらに寄稿させていただいた記事です。