香月孝史さんの『「アイドル」の読み方』を読みました
アイドル批評界隈では噂になっていた香月孝史さんの新著『「アイドル」の読み方』を読んでみました。
これが面白くて面白くて。
昨今、熱狂の渦の中心とも、批判の対象ともなることも言及されることが多くなった「アイドル」ですけど、交通整理を行って、それぞれの言説をフラットな立ち位置に立たせてくれて、「アイドル」(特に女性アイドル)の現状を冷静に見ることができるようにしてくれる本なんですよね。
「アイドルの歴史はこうだった」とか「アイドルはこういう解釈だ」「アイドルとはこういうものだ」という本や文章は多いいんですけど、それらの言説を整理するという意味では、この本はアイドルについての論壇の中で非常にレアであり、かつ重要な位置づけができるんじゃないかと思っています。
理論にバックボーンがある人でも、情熱を込めて書かざるを得ないのがアイドル批評あるいはアイドルライティングの世界だと思っています(このあたりは本でも言及されている「アイドルのパーソナリティが重要視されている」ことと無関係ではありません)。
だからこそ、それらの言説の「冷静と情熱のあいだ」を縫ってくれるようなこの本がすーっと入ってきました。
その点において、過去の言説の整理の手法と角度については若干異なるかと思いますが、個人的には昨年のさわやかさんの『AKB商法とは何だったのか』と双璧になるアイドル批評本なんじゃないかと思っています。
ただ、香月さんのように非常に丁寧な交通整理をもってしても、いやむしろ丁寧な手法だからこそ、
「「アイドル」自体が日本社会のなかで、一見非常にわかりやすそうで、実際にはものすごくつかみどころがない言葉なのだ。アイドルについて語るとき、我々はアイドルは何なのか、あまりにわかっていない」(あとがきより)
ということが明示されるというジレンマに陥るという…。
非常に強い結びつきで絡まっているひもを解きほぐしていったところで、実は1本の糸ではなくて複数の糸が絡まっていたことを知るような感覚、というか…。
5章の「恋愛禁止」についての言及がわかりやすいと思うんですが、この本では答えを出すことを避けているんですよね。もちろんこの本でそれをやってしまうととっ散らかるに決まってるんですが、あえて出さずに交通整理に徹した上でも、「さあ、どうしようか」という答えが出すのが難しいのが「アイドル」なわけです。
もしかしたら、現代のエンターテイメントの中で、最も複雑な視点から言及されているのが「アイドル」なのかな、ということをこの本から実感しましたね。
正直に言うと、「アイドルファンの外」に売れる本なのかどうかはわかりませんか、「アイドルについていろいろ言われてるけどよくわからん」とか考えているアイドルファンにはクリティカルヒットな本だと思います。
「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う (青弓社ライブラリー)
- 作者: 香月孝史
- 出版社/メーカー: 青弓社
- 発売日: 2014/03/20
- メディア: 単行本
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