あくまでも観客席から

アイドルにかじりついた記録を残したい人のブログ。

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[ネタバレ]『DOCUMENTARY of AKB48 The time has come 少女たちは、今、その背中に何を思う?』を見てきました

 

AKB48のドキュメンタリー映画4作目。今回は一番情報量が多い映画になったんじゃないのかな、という感想がまず頭の中に浮かびました。なので、備忘録的な意味合いも兼ねてこのエントリーを書いてみます。まだ見てないって方は、そっ閉じしてくださいね。

 

見えないように、最も話題になったであろう第2作の紹介リンク貼っときます。

 

 

 

大島優子から渡辺麻友への王位継承を語る映画」ではない

ドラフト会議で指名されたメンバーの上京をプロローグに、大島優子紅白歌合戦で卒業発表するシーンから物語が進んでいって、総選挙の開票イベント(+握手会事件)で物語が幕を閉じていく、というのがものすごくはしょった大筋です。ただ、僕は「大島優子がドラマティックに卒業していって、渡辺麻友がドラマティックに初の総選挙1位になって、はぁそれがAKBの正史なんだよなー」と安易に捉えてはいけないと思いました。

 

あくまで、大島優子の卒業という言及を避けられないトピックを前に掲げつつも、いわゆる「それ以外のメンバー」にも寄り添っていった作りではないかと思います。

 

過去4作で最も「寄り添った」つくり

「寄り添う」という意味では、過去の3作に比べると最もメンバーに近い距離で作られていたのではないかなと感じています。高橋栄樹監督自身が6割ほどカメラを持った(TBSラジオ宇多丸のウィークエンドシャッフル』でのインタビュー)ということもあるでしょうし、構成・演出に関してもそれを感じました。

 

1作目は、ドキュメンタリーという以上に「インタビュー」の意味合いが強かった。彼女たちが裏ではどんなことを考えながら活動しているのかを「のぞいてみる」という意味合いです。2作目では、震災という象徴を掲げながらアイドルのステージ裏の戦場を描き出す、わかりやすくショッキングな構成。3作目では、2作目ほど大きなできごとに頼るのではなく、メンバーの「卒業」をマイルストーン的に使いながら、1年間のメンバーのキャリアについて考えて見せる作品でした。

 

今回の4作目では、追加のインタビューシーンが一切ないんです。1作目と2作目・3作目を比べても減ってはいますけれど、4作目の少なさは圧倒的。言葉を聞くにしても、すべてその場で聞いているんですよね。ここまで現場のコンテクストに頼る作りで、「AKBが好きな人以外はどう感じるのだろう?」という心配すら起こるほどです。高橋監督も今回が映画は3作目ということもあって、メンバーとそしてファンへの信頼してくれたのかもしれません。

 

メンバーそれぞれの立ち位置が見えてくる

先ほど書いたように、「大島優子から渡辺麻友へ」以外に何が見えてくるんだ、という話ですけれど、それこそすごくたくさんあります。覚えてるものを列挙してみましょうか。

 

  • 未知の世界に飛び込むドラフト生の西山怜那後藤萌咲
  • 自分なりにリクアワのひな壇での課題に取り組む前田美月
  • 後輩のドラフト生にメイクの仕方、作法をバッチリ教える湯本亜美市川愛美
  • 泣きじゃくるチーム4のメンバーをなだめる側に回る岩立沙穂
  • SKEメンバーに総括を語るリーダーとしての思いと、1メンバーとしての辛い思いを抱える松井玲奈
  • NMBへの移籍が発表され、違和感を隠さない菊地あやか
  • 大組閣当日は泣き崩れるも、しっかりと後輩メンバーを勇気づける強さを持つ佐藤すみれ
  • SKE移籍を提示された想いと現実のギャップを受け止めようとする岩田華怜
  • 初日マジックと現状のギャップに弱さを隠しきれない岡田奈々
  • 何よりも自分で考え、そしてメンバーのそばで寄り添い伝える内山奈月
  • キャプテンだけども不安を抱える峯岸みなみ
  • 意外と新チーム異動の不安も笑顔で迎える小嶋真子
  • 総選挙で1位を守る複雑な心境の指原莉乃

(市川愛美さんを追加しました) 

 

大島優子さんの卒業は特別に象徴として扱われてはいますけれど、ここで挙げたメンバーの描写はすべて「渡辺麻友1位」と並列して扱われているんじゃないかなと思っています。大島優子というAKB48を体現してきたメンバーが卒業する裏で、メンバーたちは何を感じながら、大組閣や総選挙といった山に対して、どういう思いでどう望んでいったか、というのを映像で近くにいるようにして感じられる映像だと思っています。

 

もちろん、前作から空白となってしまった2013年の総選挙からドラフト会議あたりまでのドラマが見えなくなってしまったというファンとしての物足りなさはどうしても残りますが、これだけ様々なメンバーが「自分の立ち位置でもがきながら動いていく」構成で作っていくとしたら、あと3時間あったとしても映画作品として成り立ちません。なので、僕個人の思いとしては、大島優子の卒業をうまく使いながら、その近くにいたメンバーに寄り添ってくれてありがとうという感謝の思いが大きいです。

 

象徴的な言葉を発していたのは松井玲奈

時間としてはそんなに長いわけではないのですが、上にも列挙した松井玲奈さんのシーンが一番印象的に残っています。

 

リクエストアワーで「大組閣祭り」の開催が発表された直後、SKE48のメンバーに向かって「こういうことになったからこそ、今の自分の立ち位置をしっかり見つめ直していこう」という、SKE48のエースとして、チームEのリーダーとして振る舞いで不安なメンバーを勇気づけます。その凜とした姿のままエレベーターにスタッフと業務的な会話をしながら乗り込んでいくのですが、扉が閉まり、メンバーの姿が見えなくなると同時にその場で声を漏らしながら涙する玲奈さん。チームを鼓舞する立場でありながらも、ひとりの人間としての不安も大きいことを象徴するようなシーンでした。さらには、AKB48グループの大きさみたいなものも感じました。その少し後の大組閣祭り本番のシーンでチームEのリーダーが自分でなくなったときも、自分へ言い聞かせる意味も込めたような無言のうなずきにも、何かを感じさせられました。

 

あえて主人公を探すなら「営業部長 高橋みなみ

今回の主人公をあえて言うとしたら、高橋みなみさんでしょうか。それも、第一線で働きつつも大きくなった組織の中間管理職であるということが、この1年半でさらに加速したのだということを見せつけられたような気がしました。国立競技場コンサート中止をメンバーに告げる時の各メンバー・スタッフ・そして大島優子への気遣い方がリーダーとして完璧過ぎます。業務的にも、感情的にも、隙がないんです。ショックを隠せない空気での連絡が終わった後の「それでは解散です。各マネージャー、アテンドをお願いします」とスムーズなアナウンスができるアイドルが他の同世代にいるでしょうか。

 

これまでそれぞれのメンバーに「寄り添った」映画だと繰り返してきましたが、それも大島優子という象徴が引っ張り、高橋みなみというリーダーのベースのラインの上にあるということは感じざるを得ませんでした。違うもっと言ってしまえば、AKB48グループ自体がこの2人にかなり依存していることを認めざるを得なかったです。大島優子高橋みなみのことを「戦友」だと表現していましたが、この2人が少し違うレイヤーで戦い続けていったからこそ、今のAKB48グループがあるのだなという感謝の気持ちも改めて大きくなりました。

 

この先、さらに象徴的なメンバーがAKB48グループを去って行く中で、各グループやメンバーごとにファンの興味も分散していくと思います。おそらく、以前の前田敦子大島優子のように、超象徴的なエースは現れないでしょう。AKB48SKE48NMB48HKT48など各グループとの勢力図も平衡化してくるでしょう。そうなったときに、残った高橋みなみが支えている精神的なベースのようなものを、どう分散化していくのか、あるいは全く違った構造にして支え合っていくのか、というところに興味、いや危機感が出てきました。

 

前田敦子大島優子が卒業する時よりも、高橋みなみが卒業する時の方が、AKBが変わる分岐点になるのは間違いありません。それを改めて噛みしめております。

 

おまけの感想

推しの松村香織さん、思った以上に出番がたっぷりで、「SKE48(名古屋)終身名誉研究生 松村香織」とテロップがしっかり入って、SKE所属メンバーで一番尺があったんじゃないかってくらいうれしかったんですけど、エンドロールの「映像協力」の欄に彼女の名前がないっ!! いや、「撮影」の欄でもよかったんですけどないっ!! だって、今年の被災地訪問の映像なんて、6割くらい彼女の私物のハンディカメラからの映像だったんですよ。ちょっとくらい名前入る場所増やしたってよ製作委員会さーん!

 

まあ、そんな感じで、姉妹グループ推しの人にとっては物足りない映像だとは思います。ただ、SKE48に関しては、ちょうど今回のドキュメンタリー映画では空白の期間になっている昨年4月の春のSKE48組閣からの1年間が新曲『不器用太陽』の映像特典に入っているようなので、そちらに(うっすら)期待してみようかなと思っております。

 

ああ、48グループが持っている映像資料、どこかで開放してくれないかなぁ…貴重な映像がきっとたくさんあるのに…(毎年恒例