あくまでも観客席から

アイドルにかじりついた記録を残したい人のブログ。

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アイドル評論同人誌『ソシゴト vol.4』を読んで。その1

※2011.11.15 「アイドル×都市空間論」の筆者の方から補足コメントをコメント欄にいただきました。

ブログを書くのはだいぶ久しぶりになります。どうもこんにちは。

 

さて、ブログを書こうと思ったのは、Twitterでもフォローしてるアイドルファンの方々が熱意を持ってつくった『ソシゴト』の最新刊が発表されたからなんですね。

 

今年に入ったくらいからいくつか「アイドル批評誌」なるものを読んでみていますが、中身は多種多様。雑誌『TopYell』のように現場レポート的なものから、ヲタ間での対談・座談会的なもの、アイドルが出演したテレビ番組からの考察、楽曲を提供するクリエイターから見る考察、異種ヲタ同志の対談など、本当にいろいろな面白い論考がありました。ただ、これらはまだ同人誌にすぎないのもあって、単に「ヲタ的熱意」を文章化したものとの差別化が難しいものも見られました。

 

危機感をもったのか、今回の『ソシゴト vol.4』は「アイドル×リベラル・アーツ」として、「経済学」や「宗教論」など、アイドルに対応させる学問を明示していくつかの論考を掲載しています。これは「アイドル」というジャンルを批評する上で非常に面白い試みだと僕も思います。僕が大学時代に専攻していた「スポーツ」というジャンルも、「スポーツ学」としてのみ成り立つものではなく、「スポーツ×経済学」「スポーツ×社会学」「スポーツ×歴史学」「スポーツ×生理学」などあくまでも基礎学問があった上での「応用学問」として捉える必要がある領域であったため、幹線空港の取り組みには非常にシンパシーを感じています。何も軸を定めずに書き進めていくと主観的な情念ばかりが全面に出そうなアイドル論の文章ですが、今回はそれに比べると主観や現象に対して対応すべき概念が見える文章が多かったので読み進めていて面白かったです。

 

というわけで、8つの記事を1つずつ紹介しながら感想を書いていければと思います。もし著者の方が読んでいただけるのなら、研究者の方も多いようなので、今後のさらに面白い論文を書いていくための1つの肥やしになってもらえたらうれしいです(上から目線になる部分もあるかと思いますがご容赦を)。

 

●アイドル×社会理論 「アイドルのアイデンティティ ――少女たちの自己像」柏 幸政

この論文では、大学生のシューカツ的な「自己分析」とか、もう少し発展しちゃえば「自己構築」的な概念をアイドル(特にAKB48グループを通して)で説明しています。前半部分では80年代的「虚構」から「拡張現実」の中に生きるアイドルは、Google+やブログ、まとめサイトを通して自己をさらけ出しながら生きていくことで自己を再構成していくというサイクルを指摘しています。またそのようなさらけ出された中で「推され」や「干され」のように「勝ち組」「負け組」的なものに対する反応が見えるという指摘も面白いです。現代社会の様子がアイドルを通して見えるというのは確かにとうなずかされました。ただ、それが「AKB48だから」なのか、「アイドルだから」なのか、「芸能人だから」なのか、「有名人だから」なのかはまだまだ検証できる余白があるのではないかと感じましたね。

 

●アイドル×都市空間論『「休み時間の教室」のような場所で――思い出の共同体/都市の再場所化をめぐって』吉本 のりお

この論文では、現代の都市空間を語る上でよく登場する「ショッピングモール」と、それを舞台にイベントを組むことが多い(多かった?)私立恵比寿中学(エビ中)の関係を見ながらどのように現代の都市空間が形成されているかを試みています。ただ、残念がら都市空間の変遷やショッピングモールがもたらしている役割とエビ中のイベントがどのような関係性を持っているのかが明らかにされていないようです。エビ中の空間がエビ中ファミリーにとっていかにエモーショナルであるかという部分に論を割きすぎてしまったように読み取れました。逆に言えば、アイドルがライブを行う場所がその「施設が持つ意味」(特にアイドルファン以外にとっての)を無視されてしまうということが言えるのかもしれません。

※著者方から直接補足説明のコメントをコメント欄にいただきました。 

 

●アイドル×都市社会学『「乃木坂」から考える――渋谷を舞台にする少女たち』谷 コウ

乃木坂46」と彼女たちが歌う「渋谷」をテーマに、ゼロ年代アイドルが「都市(まち)」とどのような関係性を持つかを考察している論文です。大きく言えば「80年代的」なものと「ゼロ年代」的なものを対比させています。アイドルで言えば「手の届かない存在」と「会いにいけるアイドル」、都市社会学で言えば「渋谷のように街を軸とした文化」と「地理に依存しない施設や文化」といったところでしょうか。ゼロ年代の代表的アイドルであるAKB48は名称も記号的だし、たまたま秋葉原に劇場があるだけで秋葉原固有の文化に依存しているわけでもない。一方で乃木坂46は「劇場がないので毎日は会えない」「記号的であるAKBに対して乃木坂という固有名」「しかし握手会はある」など、80年代的要素にゼロ年代的要素が混ざっていると指摘しています。そこから「乃木坂46は80年代的な『演出』を取り入れている」という非常に面白い視点が見えてきましたが、そこの決定打が弱いなと感じてしまったのは「実際に作り手がどう作ってるか」に説得性が欠けていたからでしょうかね。もしかしたら80年代的なものを作り続けてきたソニー・ミュージックが母体であるということも考察の要素の中に入れてみるとさらに面白くなりそうだなと感じました。

 


思ったより文字数が伸びたので、今回はここまで。残りの記事は後ほど。

 

Amazonでも販売が開始されるみたいですが、直販の方が500円も安いみたいです。両方リンク貼っておきますね。

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